趣味の散髪
- 加藤 誓(ちかい)

- 2021年9月11日
- 読了時間: 3分
更新日:2021年10月13日
平成28年8月理事会の時、11月に名東区役所講堂で開催される「趣味の作品展」 が
議題となった。他の学区の理事の方々から、「高針は毎年素晴らしい作品が数多く あっていいね!」とお褒めの言葉を頂いた。 「いや、いや!」

と言いながらも、誇らしく思った。 「いや、待てよ。会員の皆さんのお陰で、私は一度も 出品したことがない。」実は、図工は小さい時から苦手 である。絵の下書きまでは、まあまあだが、絵具を塗 るとだめになる。木工も設計図までは、そこそこだが、組み立てる段階で壊れてしま う。習字は中学の先生に芸術的な「型にはまらない書」を教えてもらい、デタラメな 字のままである。ましてや、手芸など、したことがない。
何か出品できるものはないか、考えた。「そうだ!自分で散髪をしてみよう。
いつも 床屋さんの鏡でやり方を見ているからできるかも?」 先ずは、三面鏡に映る
頭の右左、前後の感覚を手で確かめるため、手で髪の毛を掴み ながら買ってきた、
すきまハサミで切ってみた。
左右の感覚はつかめたが、前後の 動きをつかむのが難しく細かいところ、特に剃刀は、
難しかったが何とか出来た。 女房に「どうかね!」「後ろがムラになっているよ!」
どうも刈込みすぎたようだ。 11月までまだ時間がある。
このキャンバスは、時が経てば元に戻ることが自慢? 何回か修理を凝り返し、
11月「第42回趣味の作品展」に「動く作品番外編」とし て出品することができた。


不思議そうに、じーと私を見ていたご婦人がいた。「剃刀はジーパン布で研ぐと再生 できますよ。」と教えると喜んで去っていった。 だが、私の作品の評価は、悪ふざけと捉えられ、いまいちであった。
しかし、あくまでも趣味とは自己満足の世界であり自分としては 「実利を兼ねた立派な作品」だったと思っている。
あれから5年、床屋さんには、申し訳ないと思っているが、ずうっと作品を作り 続けている。 技術は、随分と上達をした。しかし、再生するキャンバスが変化をしてきた。
以前から白地を黒く染めてはいたが、その範囲が広がり、 今は全体になったようだ。

そして、キャンバスの前と 左右の切れ込みのところがだんだんと上がってきたのだ。 以前は、7:3に分けていたキャンバスが8:2になり、 今は、9:1で分け、前に少し垂らし上がってきた切れ込みを 隠すようになった。 「しわができるところ
までが顔、それ以上は頭皮、ふけのでるところは、まだ毛根が あるが、髪の毛がなくなったそこは、ふけも出ない。顔がデカくなったなあ。」 と嘆きながら、コロナ禍で暇な私は、毎朝、時間をかけ、念入りに「趣味の作品」の 作成に取り掛かっている。

髪の毛に剃刀を当て、「ガッチリ固定・スーパーハード整髪料」で一心不乱にドライ ヤーセット・・・。
なかなか、決まらない。「うーん、やっと決まった!」

突然、山の神の大きな声。
「洗面台の髪の毛をしっかり掃除しといてね。小さな髪の毛がいつも散っているの よ。片付けるのが、大変だから。」「もう、いい加減、床屋さんへ行ってよ!]




コメント