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三途の川放浪記

更新日:2022年8月24日


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紅白歌合戦が終り、いつものように高牟神社に初詣に出かけた。

今年の0時は毎年の1/5で若い人が多く高齢者は殆んどいなかった。

除夜の鐘もなく静かに、早くお参りすることができた。

但し氷点下で非常に寒かった。帰宅し熱い風呂に入り床に就く。

突然目の前がパッと光り気を失った。ヒートショックを起こしたのだ。

5分程経ったころ 私は何故かエコバッグを背負いトンネルの中を遠い先の明かりを

目指して ひとり歩いていた。

30分程でトンネルを抜けることが出来た。

目の前が急に明るくなり開けた場所にでた。目の前は大きな川が流れていた。

案内板に「三途の川」の表示があった。ここが有名な三途の川か、

大勢の人で賑わっていた。少し歩くと商店街に出た。

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「冥土の土産屋」の看板。買い物客でごった返していた。

ここは、おもちゃのお金が通用するらしい。その札束を

「なんまいだ!なんまいだ!」と数えている年老いたご婦人の声。

向こうの方で神主さん風の店員さんが「お客さん お金を

はらえたまえ!はらえたまえ!」の声。

私も祖父母や父親に土産を買って逝くことにした。「ジジ・ババは冬になるとあかぎれを

つくり、曲がった腰で膝を撫ぜながら歩いていたなあ!

ヒートテックの下着とホッカイロ、ロキソニンテープを土産にするか。オヤジの時は、

皆にテレホンカードを配ったなあ!何枚も持たしてあげたが1回も電話がなかった。

あの世は、通信圏外なのかなあ!

今度は圏内になるから携帯電話を土産にしようか、スマホでは難しいから簡単ガラケーだ。

それから、宴会の時 東海林太郎、村田英雄、三橋美智也、お客様は神様の三波春夫をよく歌って踊っていたなあ。テレビにつなぐカラオケセットを買って逝くか。

飲み友達には身体に良いノンアルコールビールを土産にしよう。

そうそう、マスクを買うのを忘れたらだめだ。あの世でも 新型コロナ感染予防に必須なのだそうだ。アベノマスクが一番安く在庫も豊富にあるそうだ。 レジの支払いは覚え立てのキャシュレスPayPayで支払った。

三途の川や海がプラスチックごみで随分汚れたため ここもレジ袋は有料となったとか。

皆への土産で持参したエコバッグが一杯になった。


石ころの塔があちこちに立つ賽の河原を通り、三途の川の渡しのところにやって来た。

密はだめとのことで4人のお客に船頭1人。舟数を以前の5倍にしたが待つ人で行列が

出来ている。長良川鵜飼いの船頭が見たら羨ましいだろうなあ!

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川下に大きなクルーズ船が停泊している。

「ダイヤモンド・プリンセス号」の文字が見えた。

新型コロナ感染で亡くなった人を 渡らせない様にするため

「あの世の行政」が拒否し1ケ月間も停泊させられているとのこと。

「早くしないとお化けになるぞ!」と野党が予算委員会で叫んでいるとのこと。

ワクチンが出来れば許可が下り トナカイのタグボートで一気に天国まで旅立つとのこと。



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やっと順番がきた。「船が出るぞー!」

慌てて船頭に 渡し賃の6文銭を払い乗り込む。

見知らぬお客4人で生前の四方山話をしながら天国行きか地獄行きか誰とはなしに 話を始め出した。「地獄から這い上がる時のハスの糸の強さが心配で

補強のために納豆を沢山持ってきた。健康食品でもあるしね!」 

「それは長生きするわ!」次に「地獄も金次第と聞いているので 税務署に絶対に

バレないへそくり現金遺産を持ってきたぞ!」と二重底の旅行カバンを擦った。

「そりゃ、荷物検査で見つかり 間違いなく地獄行き確定や!」

「私の人生がどうだったか、この前までしっかり覚えていたが、認知症になりさっぱり

分からなくなった。」「心配がなくていいね!」

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「あんた、江戸っ子だってねえ!」「そうだよ!競馬から競輪競艇にオート宝くじなど博打人生だった!天国か地獄かサイコロを振ってみよう!振り出しに戻るといいんだがなあ!」

これから逝く「閻魔大王」のお裁きが怖く、4人はわいわい

がやがや騒いで気を紛らわす。

船頭は難聴なのか お客の騒ぎを気にもせず 淡々と櫓を

ギィーギィーと漕いでいる。向こう岸に着いた。

凄い行列だ。案内係なのか 私と同じ背丈のピンクの小鬼が「2メートル間隔の小石を目印に一列に並んでください。マスクは付けて下さい。手もこれで消毒してください。」

そして体温計を額にあてた。

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私は35.8度でOK!後ろの人が38.0度で「あちらのホテルで2週間滞在して下さい。」「えっ!2週間寿命が延びるの?いいね!」

ピンクの小鬼が「亡くなったら一番前になりますけどね。」

「えっ!又、死ぬの?分からない?」

行列の後ろの方を見た。 若い彼は うつむき加減で元気がなく

青白い顔の額からは 血が流れていた。思い出した。

1週間前私の車を煽ってきた奴だ。その内事故を起こすぞと思っていたがやっぱり起こしたか。

その後ろに私に向かって手を振っているのがいる。同じ糖尿病外来に通っていた友達だ。

あれほど、「酒には気を付けよ!」と注意したのにダメだったみたい。

閻魔大王が居る大きな館の赤い門が遠くに見えた。門の両脇には黄色と青色の大鬼が金棒を持って立っている。まだまだ先なので 歩きスマホで現世のニュースを見た。

何かトランプが駄々をこね騒いでいる。大鬼が姿を変え

トランプになったということを、ここへ来て初めて知った。納得!

大きな門をくぐると、玉砂利の白洲があった。緑色の大鬼が「そこに座って頭を下げ待つように!」との指示。

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大音響のもと「閻魔大王様のお入りー!」とお裁きの席に閻魔大王が座った。

「面をあげ~い!」恐る恐る顔を上げると、そこには、鎌倉の大仏程の大男が見えた。大王の字の冠をかぶり赤味かかった顔で鋭いドングリ目でこちらをじろり! 

私の全てをお見通しのようだ。

再び地面に額をこすり付け「ひぇ!はッは~」と伏せた。

「苦しゅうない!面を上げよ。尋ねるが、名前は何と申す。」

「かっ、加藤 誓(ちかい)と申します。」閻魔大王が隣に座っている秘書の大赤鬼に「鬼籍にその名前があるか?」と尋ねた。

大赤鬼は鬼籍簿を何度も調べるがない。

「加藤 哲 はありますが誓 はありません。どうも区役所の役人が間違えたようです。」

閻魔大王は暫く考えていたが「鬼籍の帳簿を今 変える訳にはいかない。

加藤 誓は鬼籍に記載ないのだから、裁く訳にもいかない。現世に戻る他にない。

もどーれ!」

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 大赤鬼は 恥入り赤い顔を更に赤くし 頭を下げた。

私は、飛び上がり エコバッグを置いたまま、「これは奇跡だ!」

と叫び閻魔大王の館を急いで飛び出した。


三途の川に来た。船頭は何故かギターを胸に掛け 弾き語りで歌っていた。田端義夫の「帰り船」だ。端やんは ここに就職していたのだ。


急いだためか全身汗でびっしょりとなった!  その時 目が覚めた!!

「えっ!夢だったのか?」ホッとしていたら 寝室にノックの音!

「あなた、何を騒いでいるの!私は明日早いんだから!」ドアが開いた。

そこに、真っ赤な顔をした女房が現れた。

段々エキサイトしたのか角が生えてきた。「ひぇ!閻魔大王の横にいたあの大赤鬼だ!」と布団をかぶった。


「あなた、区役所から問い合わせがあったから帳簿の名前を哲から誓に変えておいたからね!」と言って寝室のドアをバーンと閉めた。

寝室に落雷と共に閃光が走った。つぎにピンク色の光そして七色の虹が見えた。

夢なのかどうか。

目をこするが分からない。深い眠りについた。


 
 
 

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